vol.18 貴重な1ページ
vol.18貴重な1ページ
ペットショップや獣医院やブリーダーさんと話せば話すほど、現状の日本の犬に対する意識の低さを痛切に感じました。 自分の思い描いている犬文化とのギャップの大きさや、食事の問題、動物や自然との共生感の違いに落胆していく日々でした。 それでも私は、決してあきらめず、この虚しさや、憤りや、悲しさをなんとか前向きなエネルギーに変えようともがいていました。
我が愛犬との良き思い出、愛犬との山歩きなど、少年期のとくに意味があったわけではない淡々と繰り返された日々を振り返りました。そうすることが、自分自身への一助の光となり、過去の記憶に思いを馳せることで、気持ちを前向きにもっていけるような気がしていました。 そんなある日、友人であるジャーナリストからうれしい知らせがありました。 アメリカの自然治療の第一人者である「ハンナ・クロ-ガ-先生」を紹介してくれるというのです。
半信半疑で準備をし、アメリカに渡った私は、友人と共に『自然治療の道場』である教会の門の前に立っていました。 門扉から道場入口まで数百メートル。そのど真ん中に、中をうかがうこともできないように、大きな大きな、存在感のある『しだれ柳の大木』が仁王立ちしています。 何か都会人を寄せ付けない険しい山のような、怪しげな雰囲気。 『道場』とは大げさな表現…と思われるかもしれませんが、まさしくその言葉がふさわしい場所のように思いました。
弟子入りに必要な心の準備と覚悟を決めてきた私でしたが、突如、不安が襲ってきました。 異国の地の、このような場所に、勢いだけで来てしまって…果たして本当に良かったのだろうか? 私なんぞが来ていい場所ではないのではないか? 何かヘンな宗教団体ではなかろうか? そんな疑問を抱えながらも、友人に続いて門をくぐり、中の建物へと向かいました。
直角に作られた建物の真ん中付近にある玄関から入ると、だだっ広い空間が広がり、奥には厨房らしき場所があります。その隣はテラスのようになっています。 友人はそんな私の気持ちにはお構いなし。平然と厨房の方へ進んでいきました。 「こんちは-…こんちは-…」 友達の家にでも訪問したようなお気楽な友人の挨拶に、私が大きく引いていると、奥から目だけが異様にきらきら輝いている老婦人が出迎えてくれました。
「この人がハンナ、こいつが友達のペットフード屋」 友人の紹介は、実にあっさりして気の抜けたものでした。 この紹介のおかげで(?)『なれない英語をどのように駆使して、私が目指している自然食や犬文化の向上についてや、これまでの様々ないきさつを伝えるべきか』なんて前日まで頭を悩ませていたことも、すっかりどこかにとんでしまいました。 頭が真っ白なまま「こんにちは!ドッグフードを真剣にやっている大木です。よろしく!」とわけのわからない軽いのりで挨拶してしまいました。 しまったと思った瞬間、ハンナ先生は満身の笑みで歩み寄り、私を抱きしめ「遠い所を良く来てくれたね」と歓迎してくれました。 これまでの疑いや不安、日本での虚しさや、憤りや、悲しさまでも一掃してしまうほどの温かい出迎えでした。 まさしくこの瞬間こそ、現在のビッグウッドのフード理論が完成されていくための貴重な1ページになりました。