vol.41 食物への感謝
vol.41食物への感謝
家畜農家さんも同様でした。人里はなれた山奥で、ただひたすら安全で美味しいものを追い求めて、励んでいらっしゃる生産者のなんと多い事か・・・。祖先が水にこだわり生産地に選んだ場所は、どこも同じような環境に見えました。それらは、険しい山道を幾度となく上り下りして、やっと到着するような場所です。藪や林や山林を超え、目の前に突然現れる平地のような空間に、1軒の家か2~3軒の集落があり、山肌から湧き水が流れ、谷の方に向かって段々畑が作られているような場所です。山での生活は、谷の斜面を利用し屋敷が作られているため、小さな段々畑を作るのが精一杯という限られた敷地となります。そこで、畑や家畜小屋は、主に屋敷から少し離れた小高い丘のような、広い場所に作られていました。
どの生産者も家畜を愛し、精一杯の愛情や食事を与えていました。家畜小屋の周りの畑は、堆肥で土作りをし、すべて家畜の食事の為の野菜が作られていました。生産者が小屋に声を掛けながら近づくと、家畜はその生産者の所に集まり、家畜小屋を離れるといとおしそうにずっと見ていて、われわれが日常接しているペットと何ら変わりない状態でした。
生産者が、生命に対して淡々とあたりまえに注いでいる愛情や気配りに、「いずれこの家畜は人間に・・・」なんてことが脳裏をかすめてしまう事さえ不謹慎に思えてしまいました。生命あるものの尊い命、例え人間の食のための家畜であったとしても、それまでの生命に万全を尽くしている姿は、厳かささえ感じました。生命ある家畜に最後まで精一杯愛情を注ぎ、その家畜の尊い生命や生産者の生命に対する謙虚さを、我々は頂きながら生きていると言う現実を受け止め感謝しなければいけないと強く感じました。
このような生産者に出会い、様々な事を学ばせていただきました。そして、大きな食肉工場の敷地内にプレハブで作られた小さな事務所を紹介いただいたのですが、そちらが私の出合った生産者達の商品を専門に扱う業者さんでした。この業者さんは、家畜の生命に感謝することを念頭に、安全で美味しい食肉のみを付加価値をつけることなく流通させる事に日夜努力しておられ、何より生産者を大切にしていらっしゃいました。
「良いものをお届けする為には、妥協出来ずこの様な場所を間借りして、こつこつやっていくしかないのですよ。近い将来、食肉の安全性や味の違いが分かっていただける事を夢見てやっているのです。」というお言葉に心を打たれました。
さっそくこの業者さんに、私のフード創りの真意をご理解いただき、お取引いただけることになり、「良い食材でも低価格」の第一関門をクリアーする事が出来ました 。