最終回　喜べない達成感

最終回喜べない達成感

このように生産者を直で回り、様々な営みや仕事を拝見し、様々なお話を聞き、勇気や感動をたくさん頂きました。全てが私自身の勉強になり、全てが私の人生の糧となりました。こうして、ようやく理想にしていた、故「アトム」への想いがたくさん詰まったフードを、自分でも納得できる価格で流通させる事が可能になりました。やっとの想いで理想と現実を融合する事ができ、自分の想いを形にし、多くの犬の生命を大切にする事ができるようになった記念すべき瞬間でした。

ところが私自身は、まったく喜べない心境でした。「販売するという行為が、身売りする？」とでも思ってしまったのか、「精魂込めて作り上げた自分の大切な想いの象徴に値段をつける事が許せなかったのか？」定かではありませんが、複雑な心境であったことは間違いありません。販売しなければいけない！多くの飼い主さんへお届けしなければいけない！多くの犬達へ届けなければいけない！と、考えれば考えるほど辛くなり、割り切るまでには時間がかかりました。

その時の心境を今振り返れば、自己の達成感を販売する事で壊されるのが怖かっただけなのだと思います。「自分の想いや理想を現実社会が理解してくれるはずもない」し、「自分の自己満足など誰も共感してくれるはずもない」ましてや「一愛犬家に過ぎない個人の想いから生まれた小さな会社など認めてくれるはずもない」・・・というような思いに駆られ、自己満足のたくさん詰まった自己満超大作を、世間と言う荒波に向け、お披露目する勇気がなかったのだと思います。

そのような不安な気持ちをいだきながらも、身近な知人や友人を介して、このフードを欲しいという飼い主さんたちに少しずつお分けするというかたちで細々とはじめた仕事です。それが、今ではこのように多くの飼い主さんと愛犬たちに喜ばれ支持されている事について、ある意味で世間にも認められたという満足感も得られました。その傍ら、ペットフードを製造販売するというビジネスの世界に身を置いているにもかかわらず、ついつい犬の健康を追求するために採算を度外視してしまう自分に思わず苦笑することも多々ありました。

今振り返ってみると、この頃からずっと今日まで、自分の想いとビジネスとをしっかり分けることもできず、ただひたすら想いのまま進んできてしまっているのだな～っとつくづく感じます。そして、この想いはおそらくこれからもずっとずっと変わらずに心の中にしっかりと根を降ろし、ますます強くなっていくのだろうと思います。愛犬アトムのためにはじめたフード作りにことの発端をみつけた自分のライフワークは、今、たくさんの枝を伸ばし、犬たちのためによりいっそう多くの事柄を達成させていくためのつぼみをたくさんつけています。これからも犬たちのために邁進していこうと思います。